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前回のレビュー時のレジュメを抜粋しました。

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〈素材への気づきを与える支援ツールの提案〉


1.研究概要
本研究は、子ども自身の知見を広げることで、
環境に対する積極性や創意工夫の能力を向上させることを目的とする。
そしてそのために、ものを構成する素材の知識を深めることを促す、
「気づき」の支援ツールを提案する。


2.研究背景
近年の子どもを取り巻く大きな環境の変化として、
原体験に比べ疑似体験の機会が増加したことが挙げられる。
これにより、子どもは現実感を喪失する傾向にあり、
そのために適切な判断や選択を下す能力が低下しつつあるように感じる。
これまでに調査した子ども向け工作ワークショップのほとんどは、
ただ素材が与えられ、目標とする成果物をそれぞれが制作するというものであった。
しかしそれらの場では、素材をどのように用いればよいのか考え込み、
手が止まってしまう子どもが多々見られた。
つまりこれは、素材そのものに対する理解度が低いために、
子ども自身の思考と現実に大きな差が生じているからではないだろうか。
したがって、子どもにとって正確な知識を習得することだけでなく、
実際に五感を使って対象物を理解することも幼少期の知育において大変重要であると考えられる。
更に、素材に対する知見を広げることは、
新たなものづくりを行なう上でも非常に意味のある行為であると言える。


3.キーワード:「集める」
 これまでの調査から、「集める」ということが、
人と素材との新たな向き合い方におけるキーワードとなるのではないかと考えた。
「対象物を集める」〜それと「対象物と関わる」までは以下のようなフローになっている。

?、?の場合は「集める」行為そのものに、
?の場合は「集めた」対象物と「関わる」ことにフォーカスされている。
本研究では、「集める」行為は素材への理解を深めるための手段と位置づけている。
ゆえに、それぞれを切り離して検討を行なうことは、そもそも研究の意からはずれてしまう。
したがって、各段階の一部のみに着目するのではなく、
あくまでフロー全体をひとつの行為と見なし、
その中で「集める」ことに重点を置くか、「関わる」ことに重点を置くかを検討する。
そして、この考え方を元に、「集める」から「関わる」までを
一連の流れとしてサポートするツールの制作を行なう。


4.プロトタイプ
「集める」〜「関わる」というフローを把握するために、以下のようなプロトタイプを制作した。
 
 
厚さ2mmの塩ビ板でできた、一辺50mmの立方体である。
面のうちのひとつが取り外し可能となっており、
(1) 通常の平坦なもの―じっくり見る、振って音を聞く
(2)中心に直径20mmの穴があいたもの―指で触る
(3)白いビニールシートでできているもの―他の素材を通して関わる
(4)直径2mmの穴が多数あいているもの―匂いを嗅ぐ
の4つの交換用パーツを制作した。
外出時に見つけた自然物や、生活の中で発見した素材を
このケースに入れて、コレクションとして「集める」。
そして上部のパーツを交換することで、対象物と様々な「関わり」方ができるのではないかと考えた。
〈考察〉
・形状が定まらない素材(ex.粉末状、液状)の観察を行なう場合は、
 物を入れておくケースの必要性がある。
・観察対象物の形状や大きさの違いによって、使用ツールをどのように変化させるのか。
・遊んでいるという感覚はなかった。
・偶然集めたものから驚きを得るというよりも、中へ入れる対象物は、
 面白そうかどうかということを予想した上で選択するのではないか。